おれさまラボ

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要件定義を請負うということ

はじめに

IT訴訟の定番ネタのひとつに「システムの要件の範囲」あるいは「契約の範囲」を巡る裁判があります。@IT の記事でスッキリまとめられていたので、学んだ内容をメモとして残しておきます。

メモ

事件の概要

神奈川県と静岡県にデータセンターを置くISP事業者が、両者を統合した新サービスを企図して、2つのデータセンターを統合した新しいISPシステムの開発をITベンダに依頼した。

依頼内容は新システムの要件定義・基本設計、詳細設計・構築を請負契約で行うというもので、要件定義・基本設計まではスケジュール通りに進んでいたものの、要件定義書・基本設計書には詳細設計以降に検討を先送りしたものが含まれていた上、定義した要件についてもISP事業者とITベンダの間に理解の齟齬(そご)がありプロジェクトは混乱した。

両者は話し合いを続けたが、結局、ISP事業者は、完成の見込みはないとして契約を解除し、ITベンダを相手に損害賠償を求める訴訟を提起した。

この裁判の中でITベンダは、プロジェクト混乱の一因にはISP事業者が当初要件になかった「統計・カスタマーツール」機能の取り込みという「契約外作業」を強要したためと主張したが、ISP事業者側は、当該機能は、プロジェクト実施中に変更された要件定義書(新要件定義書)で定義されており、契約外作業ではないと反論した。

引用:https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2109/27/news012_2.html

裁判の争点

このプロジェクトでは、要件定義もベンダが請負で受注しているため、要件定義工程に対して完成責任があると捉えられる。この状況下で、ユーザー企業により要件が追加された場合に、ベンダが途中で変更された要件に無償で対応する責務があるのか、が争点となった。

双方の主張

失敗の原因に対する双方の主張は以下のとおり。

ユーザの主張 ベンダの主張
機能追加も当初契約の内であり、ベンダが追加費用なしで対応するべき 失敗の原因は、新要件定義書に追加された契約外の機能実装を強要されたためだ

要件定義を請負うということ

要件定義工程を請負契約とした場合、要件定義書に不備があれば、それはベンダの責任ということになる。

また、要件定義を含む全工程を請け負う場合、顧客がシステム開発によって実現したい目的自体にも一定の責任を負うことになる。

判例

東京地方裁判所 平成31年3月26日判決では「要件定義など請負契約において、これらの業務を定額の代金で一括して請け負ったものである以上、その範囲内にある作業を実施する限度においては、それが当初の想定を上回るものであるとしても、直ちに契約の範囲外のものということはできず、これについて追加代金が発生することにはならないと解する。」とあり、要件定義工程を請負契約とした以上は要件の追加とそれに伴う作業は契約範囲内であると判断されている。

参考資料

以上